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銀色の缶だ。それには見覚えがあった。なぜなら、先の凛姉が飲んでいた酒とまったく同じものであったからだ。
差し入れ――稲妻がごとく、凛姉の言葉が脳裏をかすめる。
冷蔵庫に入れるものという点も合わせて、彼女の言が床に転がるそれを指しているであろうことは、もはや疑いようのない事実であった。
ちくしょう、夕方の玄関で、頑に買い物袋の中身を見せようとしなかったのはこのためか。あんた仮にも教育者だろうが。未成年で、しかも自分が受け持つ生徒に飲酒を勧めるなんてどういう了見だ。
それに、雫たちも雫たちだ。せめて受け取るだけに済ませればいいものを、事もあろうに中身を空にするまで飲むとは。それがいまの状態を引き起こしたというのなら、自業自得としか言えんぞ。
なんだか、いろいろと裏切られた気分だった。俺も含めて全員(おばさんを除く)になにかしらの非があるんだろうけど。
呆れと苛立ちとをない交ぜにしたため息をつき、俺は雫の傍らに膝をついた。まずは目に見えてダウンしているこいつからだ。
「おい、雫」
少々乱暴に肩を揺さぶりつつ声をかけると、雫はぴくりと体を震わせ、非常に緩慢とした動作で顔を上げた。頬に赤みがさしている。雪肌なだけにその変化は顕著だ。
焦点の合っていないような目で、雫は俺を見た。
「あ、ゆうー」だらしない顔である。
どこか正体をなくしている様子の雫に、二人とも酒を飲んだのだという確信を得た。
「言いたいことはいろいろとあるけど、とりあえず今日はもう寝ろ」
「うーん」
「……おい」
間延びした声のせいで、それが承諾したものなのか渋っているものなのか、判断に迷う。しかし、それは瑣末なことで、雫が首に腕を絡めて抱き着いてきたことのほうがよっぽど問題だった。
「ゆう、だいすきー」
「はいはい、俺も大好きだからさっさと離れましょうね」しかし酒臭いなこいつ。
素面ではできない言動を恥ずかしげもなくさせる酒の力は、かくのごとく脅威だ。嗜好品とする分には構わないのだが、アルコールの摂取は理性を保てる程度に抑えてほしいものである。いやいや、大人に限った話でこいつらはダメだ。雫に頬擦りされながら俺は思う。
諦めずににべもない態度をとり続けていると、ようやく雫は俺を解放した。
と、そこで安堵するにはまだ早過ぎたことを、次の雫の行動で俺は思い知らされるのであった。
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