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疲れた。その一言に尽きる。
雫のこの癖はとうに改善されているものとばかり思っていたのだが、ここにきて再び俺を苦しめようとは。あまり考えたくないものだ。
凛姉にはキツく伝えておこう。雫に酒の類いを与えるなと。どうせ割を食うのは俺なのだから。
極力眠りを妨げぬよう、俺はそっと雫の体をベッドに運んだ。しばらくはここで寝かせることにする。いずれ起きてくれるとも限らないし、ひとまずはここに放置しておく。
さて。
残るは加奈ひとりである。
ちらりと一瞥を投げると、依然同じ体勢を維持していることがわかった。雫よりかは意識がはっきりしていそうだ。だとしたら先ほどのやりとりを記憶されていることになるのだろうが、聡明な加奈のことだ、俺の言動が然るべきものであったと理解してくれるだろう。
「加奈……」ふと思う。
なにも、俺、つまりは男が介抱する必要はないのではないだろうか?
先ほどの雫のようなイレギュラーもあるし、おばさんに頼むのが得策であるように思われる。犯人は入浴中だし。
加奈だって、酒に酔った精彩を欠く姿を俺に見られるのはいい気分ではないだろう。ただでさえ今日はなにかと迷惑をかけていたのだ。俺も気遣いのひとつでも見せるべきではと思う。
ということで、俺は立ち上がった。いまだ顔色のうかがえない加奈に声をかける。
「じゃあ、ちょっとおばさん呼んでくるから」
「酔って、ないわよ……」
まさか返事があるとは夢にも思っていなかったので、少し面食らった。しかし、俺は首を振る。
「酔っ払いの常套句を言われてもな。飲んだのは確かなんだから、言うことを聞くべきだ」
目元から手を放した加奈が俺を見上げる。元々の顔立ちもあり、睨むような目付きに見えた。いや、実際に睨んでいるのだろう。俺に手綱を取られることが気に入らないのか、自分の言葉があしらわれていることに腹を立てているのか。
だからというわけでもないが、「ならアタシの顔色を見て判断しなさいよ」という加奈の言葉に、俺は一も二もなく頷いた。
加奈の隣に腰を下ろし、その顔を覗き込む。――ことは叶わず。
視界が天井に切り替わる。
押し倒されたと気付いたのは、天井からの明かりを遮るようにして加奈が俺の顔を覗き込んだときだった。
束ねていない髪の毛が肩を滑り落ち、俺の頬を撫でる。
「なにを……?」俺は困惑のままに加奈を見た。
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