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休み明け。朝の教室は静謐な空気に満ちていた。みな緊張した面持ちであり、しかしその張り詰めた神経は、ふとした拍子で途切れてしまいそうな危うさがある。
そう、ついにこの日がやってきてしまったのだ。――中間考査である。
入学当初の実力テストを除き、高校生として初の試験となる今日は数学・英語と難度の高いもので立て続けに行われるため、俺を含め生徒たちには雑事にかまける余裕がない。HRを前にしたいまの時間帯ですら、シャーペンをノートに走らせたり教科書やノートのページを捲ったりする以外の音は、ほとんど生じていなかった。愚痴をこぼす暇さえ惜しいのだ。
かく言う俺も、加奈からコピーをとらせてもらった数学のノートに目を走らせ、必死に計算式を頭に叩き込んでいる最中である。累乗や四則計算さえ理解できていれば特に問題ない、とは加奈の言ではあったが。
それを耳にしてなお暗記に余念がないのは、つまり、そういうことだった。
一息ついた俺はそこで、ふと教室の右斜め前方、入口のほうへと目をやった。
担任、つまりは凛姉の訪れを予期したわけではなく、その方向に加奈の座る座席がある(名簿順の並びであるため、雫は目の前だが加奈とは離れてしまった)のだ。
加奈は黙々と勉強していた。目前の数学ではなく英語を勉強しているあたり、その余裕ぶりが窺える。焦燥に駆られたクラスメートのなかにあってなお崩さない平然とした居ずまいは、背景に埋もれることなく、むしろそこから加奈ひとりが浮かび上がるさまを思わせた。
どうして、俺や雫と同じ休日を過ごしていながら、あれだけ落ち着き払っていられるのだろうかと思う。
結局、勉強会とは名ばかりでまったく機能せず、なんら成果を収めることができなかったにもかかわらずだ。
いろいろと問題のあった一夜(俺の寝床に関する詳細は割愛されたい)が明けると、どこか吹っ切れた様子の加奈に引っ張られ、遊びに出かけてしまったのが事の始まり。それで土曜が潰れたかと思えば、ムダに対抗意識を燃やした雫が勝手に練った遊びのプランを強行し、日曜も土曜と同じ結末をたどることになったのだ。
勉強と呼べる時間が作れたのは夜だけで、当然ながらそれでは満足からは程遠い充実感。
こうしてみると、いつもと変わらない日常を過ごしていたのだと思わざるを得ない。
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