第一話

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   程なくして凛姉が教室に現れ、チャイムと共にHRが始まった。内容としては試験上の注意と激励だけで、普段のそれよりは手早く終わったと思われる。少しでも勉強に時間を割いてほしいという、凛姉のささやかな気遣いだろう。  しかし、無情にも時は流れ、ついに試験前十分のチャイムが鳴ってしまった。凛姉も教室を出ていく。  ここからは、俺たちは筆記用具や時計といった、試験に必要なもの以外を鞄に詰めてロッカーにしまったのち、着席して試験監督の到着を静かに待たなければならない。  カンニング行為を未然に防ぐ措置とはいえ、このなにもできない時間というのが実にもどかしい。ああしていれば、こうしていれば……そんな後悔の念ばかりが心のうちを占めていくに違いないのだ。  これは、試験に真面目に臨まなかった生徒たちに自らの行いを反省させるために設けた時間なのではないだろうか。そんなふうにさえ思えてくる。 「優、急がないと」 「あ、ああ」  雫の声に我に返る。試験を受ける体裁がとれていないと、試験監督の心証を害する恐れがある。  ロッカーのある教室後方に慌ただしくクラスメートが殺到するなか、俺もそれに倣うべく席を立つ。そのとき、背後から俺の手をとり、無理矢理なにかを握らせる存在があった。  びっくりして振り返るのに合わせて、その少女はさっさとロッカーのほうへと歩み出してしまう。足取りに従い踊るポニーテールは、今日も健在だ。  その背中を見送り、俺は拳をそっと開いた。握らされたのはノートの紙片であり、印字かと見まがう流麗な文字で何事かが書かれている。  それに目を通した俺は、ふっと緊張が解けていくのを実感した。件の少女……加奈へと目を向け、だれに言うでもなく呟く。 「焦りは禁物。答えを求めて気が急いては、見えるものも見えなくなる。……一緒に、がんばろう」  まったくもって正論だった。  
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