331人が本棚に入れています
本棚に追加
「新聞晃(あらぎきあきら)?」
「ああ」俺は頷いた。
新聞と書いてアラギキと読む。まこと特徴的な名字である。名前のほうもアキラと、これまた男ではないかという意識が先行してしまうものであったが、これはまあいいだろう。
しかし、結局すべて話してしまった。加奈には、ラブレターらしきものを受け取って呼び出されたということだけを伝えようとしたのだが、こちらが適当にはぐらかし、まことしやかな嘘をつこうとすると、眼光鋭く睨んでくるのである。
それはもう、偽りを憎み、真実を迫る、物怖じしない瞳で。
俺はもう話してしまったことから後悔しつつ、こわごわと詳細を語ったのであった。
わずかに眉根を寄せた加奈は腕を組む。
「だれかは、ちょっとわからないわね。アタシ雫ほど交友関係広くないし」そこで雫と一緒に俺の名前が出ないのはどういうことだろう。「まあ、少なくともうちのクラスじゃないわけね」
「まあな」だとしたら話していない。
そこさえはっきりすればあとはどうでもいいようで、加奈の声にはどこか投げやりな響きがあった。先ほどまでは烈火のごとき勢いを見せていたのだが、あれはなんだったのだろうかと思うほどの変わりようだ。
「雫はこのことを?」
「知らない。教えても面倒なことになるだけだし」
「でも、書面のうえでは相手がどんな人物かもわからないし、その目的も判然としない。書かれている通りである保証はどこにもないんだし。雫に訊けば、少しはわかることがあるかもしれないわよ?」
「うーん……」
打って変わって心配そうな物言いになる加奈を前に、俺は少し悩んでいた。
引き出しに入れられていたそれが紛うことなきラブレターである可能性は措いておき、異なるケースを考えてみる。とはいえ、言ってはなんだが俺たちは高校生で、まだまだ子どもなのだ。考えうる最悪の場合を想定してみても、せいぜいイタズラ程度でしかなく、それもたかが知れているだろう。
だからか、俺に危機感といった類いのものはなく、行って確かめてみればいいやという、きわめて安易な結論に落ち着いた。
その旨を伝えようとしたところ、
「私がどうかしたの?」
「ぐえっ」
その声は頭上から降ってきた。ついで、巻き付くように腕が首に回される。改めて上体を起こした俺の背中に覆いかぶさるように、雫が抱き着いてきたのだ。頬が密着しそうな距離にその横顔がある。
最初のコメントを投稿しよう!