第二話

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   片付けを済ませ、それから加奈と閑談に時を過ごしながらも、どこか俺は上の空になっていたと思う。次の授業で使う教材を出すため引き出しを覗いた際、くだんの手紙を見てしまったからだ。  ちらりとまたそれを見る。簡素な便箋だ。  最初こそその内容に浮かれていたが、改めて考えてみると、どうにもおかしいように思われる。  多感なこのお年頃(自分で言うのもなんだが)、呼び出し呼び出されといった事柄の相手が異性であるならば、俺のようになにかしら思うところがあるはずだ。しかし、この手紙。そういう浮ついた雰囲気は一切なく、どこか事務的なものを感じてならない。  文面から察せるところはそう多くないが、目的を告げることに重きを置いたような、整然かつ淡々とした文章は、相手の知性を思わせるものであると考えていたのだが……  むしろこれは、その感情を如実に表した結果なのではないだろうか?  つまり、俺を憎からず思うどころか、その逆で―― 「……ふう」  加奈に気付かれぬよう、そっと息を吐いた。  ただのラブレターであってほしいものだ。味気ない文章なのも、照れ隠しということであれば納得できるし、もはや新聞晃なる人物が実は男子だったという結果でも構わない。なるようになれ。呼び出しであることは紛れもない事実なのだから、やはり手紙に従い、出向くことが最善の策なのだ。  後顧の憂いをなくすためにも、そうするべきだろう。  ああ、こういうとき些細なことに拘泥してしまう自分の経験のなさが恨めしい。経験豊富というのも、それはそれでいやなものだが。 「……優輝」 「ん?」  話の途中で、不意に加奈が声をかけてきた。なんだろう。確か体育祭ではどんな種目に出るつもりかの話をしていて、しっかり受け答えできていたと思うのだが。 「アンタ、このアタシとの話の最中にほかの女のこと考えるなんて、いい度胸してるじゃない」 「うぇ?」変な声が出た。  なにその言い方……なにその言い方!?  まるで嫉妬にまみれた者の台詞のようだ。それ自体は直情径行もはなはだしい加奈には似合いのもののように聞こえるが、なぜそれを俺に向ける。  異様な雰囲気に気圧されてたじたじとなっていると、加奈はくすりと笑う。「冗談よ」表情も平素のものに戻った。 「たちの悪い……」 「アンタがうじうじしてるのが悪いのよ。なんなら、アタシがついていってあげましょうか?」  
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