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「いや、」咄嗟に断りかけて、はたと気付く。「なぜ俺がそのことで悩んでいると?」
「むしろ、それ以外の理由で挙動がおかしくなることがあるのかしら?」
それもそうか。しかし、やはり見抜かれていたか。気をつけないと。
「だけどな、心配は無用だ。付き添いなんて俺にとっても相手にとっても、もってのほかだぜ」
女子の立場からするとそういうのもありなのかもしれないが、男が付き添いを頼み、しかもその役目を女子に与えるとは、なんと情けないことか。俺にだって守りたいプライドのひとつやふたつあるさ。
そのことを俺は侃々諤々と力説した。
まあ、と言葉をはさんで、
「そう言ってくれるのはありがたいが」
「アンタにその手の類いの手紙をよこす物好きの顔を見たかったんだけど、仕方ないわね」
「ただの好奇心かい」
てっきり、俺は加奈が俺のことを心配してくれているものとばかり。
現実は往々にして残酷なものだ。持ち上げたかと思いきや、すぐ叩き落としやがる。
「それにしても、アラギキねえ……」
もみあげをもてあそびながら、加奈がつぶやく。そっと伏せたその目から、少し焦点が失われていた。思案を巡らすときの加奈のクセだ。
このときの加奈を、俺は気に入っていた。感情の発露による表情とはまた違うその思案顔には、普段のそれとは異なる美しさがある。いくら見ていても飽きることがない。まあ、じろじろ見ていては怒られるので、軽く盗み見る程度に抑えてはいるが。……ん、なんだか危ないやつみたいだな俺。自制しよう。
「優ー」そのとき、雫の声が。
こうべをめぐらすと、教室の片隅で女子のグループと談笑していた雫が、俺を手招きしていた。いやお前は来いと言うがな、そういう華やかな輪のなかに男がひとり入るというのは、それなりに気後れするものなんだぞ。そこのところを慮ってほしいものだ。
そんな思いで雫を見るが、なおもあいつは来い来いという手振りを交えて俺を呼んでいる。そんな雫と一緒にいる女子たちまでもが俺に目を向けてくるものだから、気恥ずかしさを感じた俺はその視線から逃れる意味も込めて加奈へと顔を向けた。
「加奈」
「行ってこい」
「そんな殺生なっ」
しかし、聞く耳持たぬとばかりに加奈は露骨に顔を逸らし、しっしっと手で追い払う動作をしてはお茶のストローに口をつけた。まーだ飲むんかい。くれてやるからむしろ飲み干せ。
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