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一息つきながら中身を覗いてみると、そこには、どこから探し出してきたというのか、空き缶やガムの包み紙などの雑多なゴミが溢れていた。草取りがやりづらいと判断したゆえの結果だろう。目に見える分にはゴミが落ちているとわからなかったし、少しのあいだ加奈の姿が見えなかったので、ひょっとするとかなりの範囲を見回ってきたおそれがある。
仕方ない。
キツイ言動に見合うだけのことをしているのだし、気分が乗らないとは言え、さすがになにもせずに終えられるほど虫がいい話もないだろう。もう高校生だしな、ガキみたいなこともしていられない。
時間を確認してみる。幸いにも、まだ掃除時間は残っているようだった。
「よっしゃ、やるぞ雫ー」
せっかくやる気を出したというのに、
「私はさっきまでちゃんと働いてたから、優ひとりでがんばってね」
なに?
いきなり出端をくじかれた。
振り返り、訝しげな目つきで雫を見るが、ヤツは依然として壁にもたれて座り込んだ姿勢のまま俺に手をひらひらと振っていやがる。……まさかとは思うが、さっきから気になっていた、俺の足下にある手のひらに軽く乗りそうな程度の草の山が、お前の言うちゃんと働いた結果だとぬかすのか?
俺の視線の意味に気付いたらしく、雫はイヤらしく口角を吊り上げて、あからさまに嘲笑してきた。いや、実際は両手の人差し指を頬に添えて、わざとらーしく笑いかけてきただけなのだけれども、俺の目にはそう見えたのだ。
ムダに容姿に恵まれてるせいで、いちいち可愛く見えるからムカつく。
だから反撃してみた。「パンツ見えてるぞ」嘘だけどな。
「え、ウソ!? やだ――あ痛ぁっ!?」
やはりとでも言うべきか。
笑顔から一転、青い顔になった雫はスカートの裾を押さえて立ち上がろうとした。しかし、勢いをつけすぎたせいかバランスを崩し、後頭部を校舎の壁にしたたかに打ち付けた。言葉にならない呻き声を漏らしながら、頭を抱えてうずくまる。
頭のなかに思い描いていたシーンが、これほどそっくりそのまま現実のものとなるとは。俺の話術に光るものを感じてならない。その爽快感の、なんとも名状しがたいことか。
「ざまぁ」俺は込み上げてくる笑いを噛み殺すのに必死だった。
そのあとすぐに加奈からチョップを頂戴したわけだが、まあ自業自得だったかなと反省している。
後悔?
するわけなかろうに。
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