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――あれから十年後。
尚は背広姿で母さんのもとを訪れた。
病室の鏡に映る自分の姿は、すっかり大人になっていた。
「……母さん」
尚はベッドの上で眠る母さんに優しく話し掛けた。
「……今日のオペも成功だったよ」
二十五歳になった尚は、医者となっていた。
十年前のあの日から、尚はいつか脳死状態の母さんのことを救う為に、一生懸命勉強をしてきた。
その努力が実り、尚は晴れて医者となることが出来たのだ。
まだまだ脳死状態の人を救う為の方法は見つかっていないわけだけれど。
それでもこの十年間懸命に生き続けてくれた母さんの為に、いつか絶対見つけてやる。
それが尚の、生きる上での絶対の目標だった。
「……そういえば、十年前のあの日、父さん面白かったよね。
俺の誕生日のこと突然思い出してさ、あんな状況でケーキ買いに行くんだもんな。……覚えてる?」
尚は微笑みながら母さんに問いかける。
母さんは終始無言だったが、尚には僅かに笑っているように見えた。
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