第1章

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その年の暮、任命式の日、新入り兵控え室は歓喜の空気に満ちていた。 唯一の例外が、隣のルイスだ。 「やった、上級兵か!」 はしゃぐアルバートとは対照的に、ルイスは浮かない顔をして、式服の埃を落としてばかりいた。 「…ルヴィ? 嬉しくないみたいじゃないか」 「あ、いや、そうじゃない」 「なら、何なんだよ?」 冷めゆく興奮。 「俺なんかが、こんな上級兵になって、本当に良いのか?」 「…」 アルバートも静かになる。 沈黙。 静寂。 他の新人兵の騒ぎ声が異次元に飛んでしまったかのようだ。 しばらくして、口を開いたアルバート。 「…なあ、ちょっと考えてみたが、階級、って何だ?」 「…」 「そんな物がどうした? 俺が下級兵だったとしても、俺は俺だ、だろ?」 「…」 「上級なら上級、下級なら下級、それぞれ努力するのみさ」 「…」 「第一、どっちにしたって、クリスティア兵には変わりない」 「…」 「…なんて、さっき浮かれてた俺が言えた話でもないけどな」 その時、係の兵士が皆を呼んだ。 「おっと、ルヴィ、もうすぐ式典だ。いつまでも考えている事こそ考えものだ」 「…だな」 そして、式典の時。 「これより、クリスティア兵士団入団式を始める」 全員、起立して挙手の敬礼をして…
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