第2章

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人々の殺気にも似た気配で満ちたカルナス要塞で、その緊張のない数少ないこの空間に、同期の司令室勤務、コルネオ・スレオニア二等兵がいた。 アルバートと並ぶ強力な若者で、各訓練で右に出る者なし、と言われる程の騎士でもある。 「やあ、アル。お疲れ」 「おう。コルネオの気遣いには感謝するぜ」 そう言って桟敷に座るアルバート。 「で、奴等だが、反乱の可能性は?」 「さあな…今日は姿がなかったが、油断は禁物だ」 日に日に凄惨になるヘルコーロの内乱の矛先は、遂にクリスティア軍にも向けられているのである。 コルネオは腕を回しながら言った。 「いや、しかし、どうにも近いうちに反乱が起きそうな気がするんだ。明日か明後日くらいに」 「ほう、それはまたどうして?」 身を乗り出すアルバート。 「いや、何、直感、というか、まあその類の物さ。確証はない」 「そう言いつつ、コルネオの勘は鋭いからなぁ」 「いやいや、あれは偶然の重なり過ぎで…」 「偶然にしちゃあ、少し当たり過ぎやしないか?」 「偶然なしに、どうやって生きろと?」 アルバートはとっさにその言葉の意味が読み取れなかった。 「…まあ、分からないならそれでもいいさ」 肩をすくめるコルネオ。 「今回のこの勘だが、当たると決まった訳じゃない。あまり深刻になって考えても、得策じゃないだろ?」 コルネオは立ち上がりかけて、ふと動きを止めた。 口から漏れる言葉。 「ただ、もしこれが現実なら、アルはきっと…まさか」 今度こそ、コルネオは部屋から出た。 ――俺が? 一体俺がどうなるというんだ? コルネオの言葉がどうにも引っ掛かり、考えるアルバート。 しかし結論が出ない。 ――俺はどうなる? 怪我? そんなのはいつもの事だ。大怪我? あながち有り得ない訳でもない。なら死か? いや、それは考えられない。むしろ考えたくない。 頭の中では自問と自答の輪が高速回転を繰り返す。 ――まあいい。たかが勘だ。いくらそれがコルネオでも、まさか常に百発百中な訳がなかろう。きっと杞憂で終わるはずだ。違いない。
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