第1章

6/8
前へ
/159ページ
次へ
その日から、アルバートとルイスには特訓が課せられた。 退役兵ながら四十代のモルトの剣技は素晴らしく、二人は圧倒され続けた。 「よく動きを読め、集中しろ」 「目だけで追うな、耳と肌で感じるんだ」 「相手の動きにすぐ対応するように、自然体で構えろ」 「利用できるならば相手の動きも使え」 モルトの指示は雨か霰か、アルバートもルイスもこれには参ってしまったものである。 ある時、モルトが見ていない隙に、アルバートは友に尋ねた。 「なあ、ルヴィ、確かクリスティアのラウェッセ兵団って、先生の所だろ?」 「確かな」 「だとすると、こんな鬼師匠を上司に持って、大変だったろうな」 ルイスは曖昧に笑っただけだ。 「そうは言っても、指導は最上だと思うがなあ」 「そんなのは俺にも分かるさ。これだけ力が上がった訳だから。ところで…」 アルバートは話題をずらした。 「…先生はその内ポールに帰るという噂だぜ」 「それでどうするんだろうな」 「俺に聞いてどうする。ラウェッセ兵団自体はラウムリネスで任務に就くんだと。まあ、あくまで噂だがな」 「おい、そこ」 いきなり後ろから雷が飛んだ。 モルトは二人のサボりを見逃さなかったのだ。 「いつ休んで良いと言った? 休憩はまだだ」 二人は異口同音に言った。 「…鬼」 それでも、この鬼ならぬモルトの指導は確かで、二人の実力は群を抜いていた。 「二人は強いなあ」 「ずるいぜ」 「…神だ」 「いや、如何様か?」 年上のモルト門下生は賛否両論。 何しろ、自分より年下の二人が道場で一二を争う実力者というのだ。 いつしかこんな憶測まで飛び出した。 「この調子ならあの二人、近いうちに絶対に水晶宮の兵になるぞ」 憶測もここまで来れば大したものである。 この事実について、アルバートはモルトから直接聞いており、ルイスも事実確認を怠らなかった。 何も言わなかったモルトはさすがに驚いた。 「何という洞察力なのやら…」 苦笑したところで、アルバートに注意が来る事はなかった。 やがて、二人だけに特別カリキュラムをやらせるのは不公平と思ったのか、モルトは他の門下生全員にも同じ特訓を始めた。
/159ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加