一ノ瀬楓と伊澄雛乃

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「幼なじみ」という特別なフィルターを通して見るヒナちゃんの姿は、少しだけ美化されてしまうのかもしれない。でも、少なくとも私からはそう見えているのだからしょうがない。 で、私が一番ずるいと思うのは、背が高いところ。現在、私の身長はほんの百五十センチほどに留まっている。それなのに、ヒナちゃんといったら。羨ましいことに、百七十センチを優に超えている。 同い年なのに、こうまで身長差があるなんて卑怯だ、って思う。 ヒナちゃんを見つめる視線は、いつも少し上向き。私は微笑をかみ殺しつつ言った。 「だーめ」 それは、ヒナちゃんの「宿題教えてっ!」という頼みに対する返答。 断ったものの、表情が綻んでしまっているのは自分でもよく分かっていた。だって、嬉しいものは嬉しいから。本心は偽れないものだ。 今日一日、同じ教室で授業を受けて。下校もやっぱりふたりきり。ヒナちゃんの顔なんて、飽きるほど見ている。それでも、すごく嬉しいし、幸せだった。
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