操惇

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「む、髪を切ったのか元譲?」 「ああ、久々にな。 「それならちょうどよいな・・・」 「なにがだ?」 「明日を楽しみにな!」 といって孟徳は俺の左目にくち付けた。 何のことかとおもって俺は無い左目を触って昔を思い出していた。 「惇兄!大丈夫か?」 目を失った翌日、弟の淵が見舞いにきた。 昨日の戦には勝ったと聞いてほっ、と胸をなでおろした。 「ああ、目以外は健康だ。」 「そっか!流れてた血の量が結構に多くて心配したんだぜ。」 「む・・そうだったのか、余り覚えてなくてな。」 「げ、まさかとは思うけど・・・」 「大丈夫だ、ちゃんとお前が誰か分かるし、左目を食った事も覚えてる。」 今思うと俺自身ぞっ、とするのだが、あのときに左目を自ら食ったのだった。 失ったモノが体内にあるとはなんだか複雑な思いである。 あれから暫く淵ととりとめもない事を話した。 しかし、淵にすら語っていないことがあった・・・ 俺はモノの遠近感が掴めなくなっていたのだった。 水を飲もうにも器があると見えているところに器がなく、あげく落としてしまうのだ。 「遠近感がない」それは、 武人の「死」と意味するに変わりはなかった。 夜も吹ふけ辺りも暗くなった頃。俺は人の気配を感じた。 「誰だ?」 「夏侯惇、わしだ。」 俺の上司で、この国の君主。従兄弟で思い人である曹操であった。 「なんだ・・孟徳か。」 「なんだと何だ?わしが居るのはおかしいか?」 「いや、忙しくはないのかとは思ってな。」 正直いって内心、驚きと嬉しさが入り混じっていた。 一国の君主である者が俺の為だけにこんな夜中に来るなんて・・ 「まぁよい、で・・大丈夫なのか?」 「ああ、日常には支障はない位にはな。」 嘘だ。日常生活は支障だらけ・・・ 水を飲むのすら一苦労だというのに・・・ 「だがな、孟徳・・俺はな」 お前の邪魔にはなりたくないんだ。 「・・・・・今日限りで、戦には出ないことにする。」 そのとき頬に何かが伝うのを感じた。 「夏侯惇・・・」 「もう、こんな目じゃ戦えない。孟徳も分かっているだろう?」
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