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少女は左手を地に付き、両足を小さく畳んだ。
そして次の瞬間、低く跳ぶ。長身の男めがけて。
驚いた長身は、当然、柄に手をやる。一瞬浮いた腰をすぐさま沈め居合に構える。
が、構えただけ。
手下が一人でも斬り倒されていたならば、長身は少女の動きに対応することができただろう。
手下が傷一つ追っていないぶん、男の心は警戒を作るのにわずかな間を要した。
心は浮いたまま。全ての動作に淀みがあり、抜刀体勢の完成とは言えぬ。
これを隙と言わずして何を隙と言うのか。
フッと短く息を吐き、跳躍と共に少女の右腕が伸びた。鋭く、最小限の動作で、突くようにして右篭手への剣を放つ。少女が学ぶ流派における奇襲の秘剣『白蛇』である。
刀を半ば抜きかけた右手の甲を、少女の刀の尖端がザックリとえぐった。
白い肉が覗き、直後、男の絶叫と共に鮮血が噴き上がる。
致命傷ではなかったが、長身は特異な刀法、隠し持った秘剣を披露する間もなく、二度とそれを使えぬ身になった。
相手に、得意とする技を出させずして勝つ。これぞ殺人剣の極みなり。
しかし、少女は殺人剣の在り方に疑問を感じていた。下衆とはいえ、命までは奪いたくない。そう思い、戸惑う手下達と、絶叫する長身を捨て置き、その場を去った。
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