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今日も私は残業で遅くなり、自宅に帰ったのは夜の11時を過ぎていた。
帰るなり、母の大きな声が聞こえる。
「陽子!陽子!ちょっと……」
「何?お母さん……大きな声出して」
私は靴を脱ぐと真っすぐリビングに向かった。
母はテレビでニュースを見ている。
そして、テレビの映像には見慣れた秀哉の顔。
「陽子!秀哉君が現地のテロに巻き込まれて行方不明だって」
「え!」
母の言葉をしばらく理解する事ができなかった。
「陽子……陽子!」
母の呼びかけで、ようやく我に返る。
古めかしいブラウン管のテレビの中で、秀哉の事件を事務的に読み上げるアナウンサーが映っていた。
結局、秀哉は見つかる事も無く、やがてテレビのワイドショーにも登場しなくなり、世間から秀哉は忘れられて行った。
私は秀哉が生きているのか死んでいるのかも解らず、胸にポッカリと空いた穴を埋める事も出来ず、ただ何と無く抜け殻のように、日常の生活を繰り返していた。
年末になって、大学時代の山岳部の仲間から毎年恒例の忘年会の案内が届く。
今回は秀哉を偲ぶ会も兼ねるらしい。
「そうだよね……もう三ヶ月以上経ってる……生きてるはず無いよね……」
案内状のハガキの上に大粒の涙がポタポタと落ちた。
私の脳裏に浮かぶのは学生時代の登山仲間達の顔。もちろんその中に秀哉もいる。
秀哉に告白されたのは、部活で北海道に行った時に登った、あのポロシリ岳だった。
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