恋愛初心者には宿題がいっぱいあるんです!

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中学が同じわたしたちは、帰る方向も一緒だ。 電車に乗ったら、ひとつだけ席が空いていた。 「早紀、座れよ」 「で、でも、隼人の方が荷物重そうだよ?」 放課後の部活は休みだったけど、朝連があった隼人は、エナメル製の大きなバックを担いでいる。 隼人、と言った後に、自分の口元がむずがゆい。 だってまだ付き合って三日目。 下の名前を呼び合うのはやっぱり恥ずかしい。 「いいよ、これも体力作りになるし。 それに、彼女立たせて、自分が座るわけにはいかねーじゃん」 カノジョ。 さっきから隼人の言葉ひとつひとつに胸がざわめいて、どこかに逃げてしまいたくなる。 「う、うん。じゃあ……」 スカートのプリーツを直しながら、ちんまりと腰をかける。 隼人と同じく、わたしも女子の中では小柄な方だ。 目の前に立つ隼人との距離が近い。 髪型乱れてないよね、と、自分の頭の天辺あたりが気になってくる。 隼人は昔、髪がストレートでサラサラな子が好みだと言っていたらしい。 それを聞いて以来、わたしは毎日丁寧にドライヤーとブラッシングをしているのだけれど、外を歩いている間にアホ毛だらけになっていたりしたらどうしよう。 冷や汗をかきながら、必死で話題を探す。 でも何も浮かんでこない。 ただのクラスメイトだったときには、もっと普通に話せていたような気がするのに。 それでも勇気を出して顔を上げたら、隼人は窓の外を眺めていた。 下から見える首筋が赤い。 さっきの耳もそうだったけど、こういうのがすぐ外に出ちゃう人なんだ。 いけないものでも見てしまったような気になって、こっちまでブワッと熱くなる。 結局わたしは俯いたまま、隼人も窓の外を向いたまま、一言も話さずに駅についてしまった。
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