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二人とも家から駅まではチャリ通だ。
それなのにわざわざ自転車を押して歩く。
お互い何も言わずに自然とそうなった。
なんでだろう。
歩いた方が少しでも一緒にいられる時間が長くなるから?
でも自転車があってよかったな。
だって、手の繋ぎ方なんて知らないし。
今はハンドルを言い訳に出来るから、気持ちがほんの少しだけ楽。
「じゃ、俺んち、こっちだから」
「あ、うん」
交差点でわたしたちは立ち止まる。
結局、ほとんど会話は出来なかった。
ここはバイバイの一言で別れちゃっていいのかな?
せっかく一緒に帰ってきたんだから、少しは立ち話でもするべき?
休日も部活ばっかりしている隼人とは、二人っきりでいられる時間はとても少ない。
でも、迷っているのはわたしだけじゃなかったらしい。
しばらくの間の後、隼人が口を開いた。
「あの……うち来る?」
ぶっきらぼうに言った後の、その顔。
ほらまた、耳も首も真っ赤になってる。
わたしが胸のあたりをぎゅっと掴んでいると、隼人は言い訳でもするように早口で言った。
「今日、数学の宿題でたじゃん? 俺、バスケ馬鹿だから、授業ちょっとついてけてないっていうか、苦手っていうか……」
朝早くから夜遅くまで部活三昧の隼人にとって、授業中は貴重な睡眠時間だった。
机に撃沈している彼のつむじを見ながら、いつかわたしのノートを貸してあげられるような仲になれたらいいのに、何度そう考えたことだろう。
「だから、宿題一緒にやってくれると助かるんだけど……」
「い、いいよっ」
隼人のために出来ることがあるとわかって、わたしは俄然張り切った。
その返事に隼人もほっとしたらしい。
「……さんきゅ」
照れたように細められた目。
二人っきりになってから初めて見せてくれた笑顔に、またわたしの胸が、きゅう、と締め付けられる。
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