恋愛初心者には宿題がいっぱいあるんです!

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案内されて入った部屋からは、隼人の匂いがした。 ベッドは半分に折りたためるもので、布団をかぶせたまま壁際に寄せられている。 床にはラグが敷かれて、小さな座卓が置かれていた。 壁にはバスケの黒人選手のポスター。 床にはスポーツ雑誌が積み上げられている。 お世辞にも綺麗とは言えない、ごちゃごちゃした部屋。 片付けたというよりは、慌てて物を隅に寄せただけと言った方が正しい。 でもこれくらいの方が、男の子って感じがして嬉しいかも。 完璧に掃除されちゃうより、普段の隼人の生活がちゃんと見える感じがする。 わたしは緊張しながらも、座卓の近くに腰を下ろした。 「えーっと、数学、数学」   隼人がバスケ部のエナメルバックを開く。 カバンの中身はぐちゃぐちゃだった。 取り出されたノートは折れ曲がってしまっている。 「何ページからだったっけ?」 座卓の上でノートの皺を伸ばしながら隼人が言う。 「えっとね……」 わたしも一緒に教科書とノートを取り出した。 机はけっこう小さくて、二人分の宿題を広げるにはギリギリの面積だった。 膝がくっついてしまいそうな距離に、こっそりドキドキしてしまう。 最初は二人で黙々と問題を解いていたのだけれど、次第に隼人の表情が曇っていった。 「に、にじほーてーしきと、にじかんすーのグラフがこうなってて? んーと、Yの解が……?」 隼人は髪の毛をぐちゃぐちゃとかき回した後、机に突っ伏した。 「ああああああああ、分数とかルートとか勘弁してくれよ、もおおおおお!」 その大げさな態度に、普段の元気な彼が戻ってきたみたいでホッとする。 わたしも二人っきりでいることに慣れてきたし。 「大丈夫だよ。ここはね……」 隼人が解いている問題を指さそうとしたら、自然と体が近づいた。 座卓の上に投げ出された隼人の腕と、わたしの腕が、一瞬だけ触れあう。 そこからピリッと電流が走ったような気がして、反射的に後ろに下がってしまった。 しまった、と思う。 こんな過敏な反応をするつもりはなかったのに。 触るのが嫌だったわけじゃない。 隼人は気を悪くしただろうか。 でも、ごめんなさいって言うのも何か違う気がする。 恐る恐る様子を窺う。 思いがけず強い目にぶつかって、わたしの中の芯のようなものが、どくん、と震えた。
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