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一度失敗しただけじゃへこたれないというか、むしろ余計やる気になるというか、隼人はそういう性格だ。
今度はちゃんと距離を測るように、隼人の腕がわたしの肩をつかむ。
男の人の体って、固い。
大きなバスケットボールを体の一部のように扱う手は、ごつごつしていて、皮膚は厚くて、タコができていて、わたしと同じ種類の生き物だとは思えない。
わたしは再び目を閉じる。
暗闇の世界で、隼人がゆっくり近づいてくる気配がする。
怖いけど。
逃げたいけど。
ぎゅうっと手を握り締めて、その瞬間を待つ。
触れた唇は、とても柔らかかった。
男らしい腕を持つ彼の体に、こんなにも優しい場所があるのだということに驚く。
掴まれた肩には力がこめられていて少し痛い。
でも、隼人のその余裕の無さが嬉しい。
離れた後、お互い、はぁ、と漏れる息が熱い。
依然として距離は近いままだ。
隼人のキラキラした黒い目が真正面にある。
どうしたらいいのかわからなくなって、わたしは顔をそむけた。
「しゅくだい、しないと……」
「う、ん……」
離れていく腕に、ほんの少しの名残惜しさを感じたのは気のせいだろうか。
その後、お互い勉強にはあまり集中できなかった。
それでも何とか宿題を仕上げて、隼人の家族が帰ってくる前にわたしは家を出る。
帰り道の途中まで隼人はわたしを送ってくれた。学校から一緒に帰るのも恥ずかしかったけど、あんなことしちゃった後だと余計恥ずかしい。
別れ際、隼人が精一杯の勇気を振り絞りました、って感じで声をかけてくる。
「あのさっ! 次の部活ない日も、一緒に宿題やんね?」
わたしも一生懸命コクコク頷く。
「う、うんっ。どこでしよっか?」
何も考えずに言ってしまった後で、これがものすごくイジワルな質問だったということに気がつく。
隼人はまた真っ赤になって、うぐ、と口を引き結んだ。
「早紀が、図書館とか他の場所が良いって言うんなら、そっちでもいいけど……」
でも。
と、隼人は言って。
「また、二人っきりになれっとこが、いーかも……」
ぶわわわわわわわわわ!
二人とも茹でダコみたいになって、下を向いたまま無言で立ち尽くした。
宿題はきっと、これからもいっぱいある。
学校の課題も。
お付き合いの仕方も。
だから一緒に解いていこう。
これから先も二人で。
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