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翌日の朝になり、澪が目を覚ますと、肩に毛布がかけられていた。毛布から知っている香りであると気付く。極微量であるが慶次が使っている香水。ほのかに柑橘系の匂いが優しい。この「優しさ」に何度救われただろうか。過去に命を繋げられなかった時、背中を押した。手を引っ張ってくれるのが翔太郎なら背中を押すのは慶次。何度助けてくれるのだろう、何度自分を立ち上がらせてくれるのだろう、と。ありがとう、と。
尋人の術日で、尋人の様子を見ようと翔太郎の部屋から出る前に、澪は翔太郎の手を取り、指にキスをする。離れがたい気持ちが澪の胸を苦しめる。
「野上さん。おはようございます。ご気分は如何ですか?」
「秋川先生。大丈夫ですよ。」
「そうですか。30分後に看護師が迎えに来ますので。」
「はい。」
「では準備がありますので行きますね。」
澪は去ろうとした時、呼び止められる。
「あ、秋川先生。」
「手術が成功したら、聞いて欲しいことがあります。聞いてくださいますか?」
分かりました、と返事をすると、尋人は嬉しそうで、でも恥かしそうで、照れているような表情を浮かべる。
「何かあればナースコール押して下さい。」
「はい。今日はよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
では失礼しますね、と去る。
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