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澪が病室を出ると、入れ替わりに尋人の両親、千尋と小百合が来た。
「尋人。」
「母さん。父さん。さっき、秋川先生が来てくれた。」
「そうか。」
「普通は不安になったり、緊張するんだろうけど、何故か、落ち着いてる。何もなかったみたい。」
なんでだろうね、なんて。小百合と千尋はお互いの顔を見合わせると、再び尋人の表情を伺う。
「信じてるんだ。絶対大丈夫だって。」
「尋人…。そうだな、絶対、大丈夫だ。父さん達も信じるよ。」
両親に微笑む尋人に、強くなった、と思った。小さい頃とは違う、凛とした強さを持った、と。
幼少期の尋人は、千尋と小百合を困らせるほどによく泣いていた。何度、「どうして?どうして僕なの?」と問うていた。性格的に大人しかった為に、無茶をすることはなかった。満足に動けないでいた為に、仲間外れにされたりと苦い経験をしてきた。
教員になろうと決意した頃には変化を遂げていた。
30分後。
「野上さん。そろそろ行きましょうか。」
「はい。」
「よろしくお願いします。」
ガチャリ、とベッドのストッパーを外す音が聞こえ、これで、という気持ちが溢れる。張りつめていた何かが途切れたのか、安堵なのか、形容し難い感情が満たす。
寄り添った両親に、大丈夫だ、と伝えんばかりの笑顔を両親に見せると、病室を後にする。
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