第一話

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駅まで手を繋いで歩いていく。恥ずかしい、そう思うが、何故だか手を離せないでいる二人。でも離したくないよ、そう言っているみたいで。力が入る。この手を?今?いつ?明日?明後日?一秒でも長く繋いでいたい、と思わずにはいられない。 満員電車の中でも密度を感じる。支える身体に隙間をあたえない。誰にも触れさせない。 「次の駅だね。」 「そうだな。」 「今日も幸せになってもらえるといいな。」 「だといいな。今日も頑張るよ。帰りは明日の朝だったよね?」 「うん、今日は当直だから。明日の朝。」 「頑張れよ。」 「うん。」 いつもの会話。なのに澪が切なく感じるのは、翔太郎の「勘」の所為かもしれない。周りの人間には、「勘が当たるなんて凄くない?」「未来が見えるんじゃないの?」「非科学的だよね。」なんて言われ様。正直、澪には気が悪い。ソレを聞くと澪は翔太郎の顔を見る。翔太郎自身は、ただの勘だよ、なんて優しく諭す。気にしてないよ、だから気にしないで、と。澪は翔太郎が自分には勿体無いほどの存在だな、そう感じていた。それは今でも思っていることで。 触れた指先を感じたまま、電車が降りる駅まですぐそこである。「お忘れ物にお気をつけ下さい。」という車掌さんのアナウンスが聞こえる。名残惜しい。 「降りなきゃね。」 「うん。あっ。」 「え?」 「忘れ物した。」 「わ、忘れ物?何忘れた…っ。」 翔太郎は澪の言葉を遮った。キスをする。 「忘れ物。」 やってやったという顔をする。でもソレはいつも通りで。翔太郎は意識していないみたいで、澪ばかりが意識している。公共の場で何をするの、いつもなら恥ずかしくても軽く、「恥ずかしいな、もう。」が言えるのに、うまくいかない。驚いている。 「じゃ、気をつけて。」 「しょ、翔太郎君も気をつけて。」 「はい、姫様。」 「…っ。翔太郎君。帰るまで待ってて。絶対だよ?」 「分かった。待ってる。」 澪は電車を降り、ホームに降り立つ。翔太郎が乗ってる電車を見送る。軽く手を振る。いつものソレではなくて。
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