序章

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*  背中の中頃まである黒い髪を持つ少女は、胸を押さえながら目を閉じていた。不安や恐怖が心の中に渦巻いている。  周りには誰もいない。冷たい石の壁は静寂を場に与える。  意を決して目を開けた。前に見えるのは、ひらけていて光に包まれた空間。薄暗い通路の終わりを明るく照らしている。  一歩進めば、そこは戦場だ。戦場とは言っても、そこで戦争が起きているわけではない。その先には、相手が待っているのだ。学校の中間試験で戦う相手が。  アイリス・シャルティーニ。それが対戦相手の名前である。  彼女は一学年で最も優秀な成績を収め、筆記試験においても実技試験においても同学年で右に出るものはいないとされている。その実力は四年生の上位に食い込むとまで噂されていた。  さらに、彼女はこの学校の創設者、校長の娘だ。校長は生きた伝説とまで言われる人物である。  全く勝てる気はしない。黒髪の少女は落胆するしかなかった。  後ろには退路がある。この道を引き返せば、不戦敗ということで戦わなくても済む。ただ、その場合は試験の成績が点数化されない。つまり、零点。しかし、そんな点をとってしまうと進級が危ぶまれる。  アイリスと戦う事がいくら嫌だとはいえ、それはできなかった。逃げることはできない。  たとえ、魔法が上手く使えなかったとしても。  自ら望んだ道だから。  この学校に入学した目的のために。  リノア・リライトは一歩踏み出した。
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