求人情報‐綾瀬 里香‐

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「……嘘」 思わず目を疑った。もう駄目だという絶望が裏切られ、水商売以上に高時給の求人が掲載されていたからだ。 あからさまに怪しい。簡単な仕事と書かれているが、実際は何をやらされるか分かったものではない。そもそも時給の額が本当とも限らない。 危険な仕事か、厳しい肉体労働か。記載されている番号を見据えながら、生唾を飲み込む。しかし祖母を助けるためには、逡巡している猶予など皆無。 どのような裏があったとしても、殺されるわけではない。もう一度、ゴクリと喉仏を大きく動かした。そして携帯を取り出した。 いらっしゃいませーと店内に響いた店員の声が、どこか遠くの方から聞こえた錯覚に襲われた。実際には里香の背後で品出しをしていた。 深刻な表情で求人誌のページを捲り続けていた自分を、不審に思ったのかもしれない。里香は店員の目を気にしながら、記載されている番号へ電話をかけてみることにしたのだった。 通話ボタンを押して耳に押し当てる。間もなくして電子音が鳴り響き始めた。 「もしもし?」 「あ、もしもし。求人誌を見て、お電話したのですが」 聞こえてきたのは男性の声。アルバイトに応募をするのは今回が初めてということもあり、里香の緊張感は最高潮に達していた。 「ありがとうございます。それでは明朝の6時に、川崎駅までお越しください」 随分と早い時間帯からの集合だが、川崎駅なら南武線を使えば20分程で行ける。特に問題はない。 「あ、履歴書は必要ですよね?こういったのは初めてでして」 「そうでしたか。履歴書は不要ですよ。紙切れに書かれた過去など。知ったところで意味はありませんからね」 電話越しの男性は、真面目な印象が感じ取れる慇懃な態度だが、口調からは感情の籠められていない無機質な印象を受けた。 「それでは明朝の6時に、川崎駅でお待ちしております」 「あ、はい。よろしくお願いします」 相手が切るのを待ってから、携帯をしまった。まだ心臓の高鳴りは治まらない。間もなくして落ち着き始め、それと同時に川崎駅の何処に行けば良いのかと疑問が浮かんだ。しかし指定しなかったのだから、行けば分かるのかもしれない。 前向きに捉えることにし、求人誌を棚に戻して店内を後にしたのだった。
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