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「あ、求人広告を見て、お電話したのですが」
「……はい、分かりました」
8月。照り付ける太陽がアスファルトの地面を焦がし、人々の肌をも焼く。まるで何かを訴えるかのように、必死に鳴いている蝉。
今朝の報道番組によると、今年は例年よりも気温が高く、何処かの県では過去最高の気温を記録したらしい。
そんな猛暑から逃れる為に、谷村遼平はコンビニの店内で通話を終えた。
携帯を閉じ、安堵の溜息をついた。これで、どうにかなりそうだ。先日まで働いていたアルバイト先はクビになってしまった。
理由は欠勤が多かったため。無断欠勤を繰り返していたわけではない。2歳下の妹がいるのだが昔から身体が弱く、風邪を引けば高熱をだし、その度に両親が寝ずに看病をしていた。
しかし、その両親は3年前に交通事故で他界してしまった。そのため妹の看病を理由に休むことが多くなり、もっと出勤してくれる人を雇うと言われ、解雇されてしまったのだ。
両親を失った際に、警察からは児童養護施設への入居を勧められたが、自立をするなら早いほうが良いと思い断った。最近になって現実を甘くみていたと痛感している。
それでも警察に頼らないのは、両親を失った直後に向けられた、同情に満ちた視線に嫌悪感を抱いていたからだった。
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