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両親を失ってから、生活のために通っていた高校を自主退学した。そして両親が残してくれた貯金を使い、家賃3万円の古いアパートではあるが、親身に事情を聞いてくれた不動産屋と大家のお蔭で借りることができた。
しかし貯金は無限にあるわけではないし、アルバイトでの収入に頼るにも限界がある。それに遥の病弱体質の影響で、クビなってしまうことがほとんどだ。
故に短期間で、まとまった金を稼ぐ必要があると考えていた。そして気紛れで寄ったコンビニで、あの求人情報を見つけたのだった。
時給3千円。
水商売などの世界なら有り得る金額かもしれないが、普通の職種なら絶対に巡り合えない額だ。しかし巡り合えた。先日まで時給850円で働いていた自分が、滑稽に思える。すぐに遼平は、電話をかけたのだった。
もちろん不審に思う点はある。時給3千円、8時から20時までということは、1時間の休憩を除いても11時間労働。
記載されている簡単な仕事とやらで、1日3万3千円を稼げるのだ。なにか裏があるとは容易に想像がつく。しかし、それが何なのかまでは見当もつかない。
それでも記載されている時給が支払われるのならば文句はない。例えそれが、肉体労働や治験だったとしてもだ。
次に遼平が違和感を覚えたのは、応募の電話をかけた際だった。
相手は男性で、声質から予想するに40代後半から50代前半。慇懃な対応の男性が、履歴書は不要と言ったのだ。
そんな事を言われたのは、今回は初めてだった。その理由を訪ねると、紙切れなどで過去を知ったところで意味はありませんと言われた。腑に落ちなかったが、企業側が言うのならと納得せざるを得なかった。
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