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「この盗っ人野郎がよォ!はえェトコ壺返せってェーの!ぶッ殺すぜェ!」
「この盗人が。直ちに壺を返しなさい。殺しますよ」
壺。
この追跡者が言っている壺とは何なのか。
それは五巳が後生大事に胸に抱えている壺である。
大きい壺ではない。
片手で鷲掴めるほどの大きさだ。
デザインらしいデザインは無く、ただただ無骨な印象を受ける壺だった。
しかし一点だけ不思議な点がある。
この壺には口が無いのだ。
いや、塞がれているといった方が正しいか。
元からある蓋を粘土で無理やり押し固めてある。
その粗雑な作りでは恐らく後付けであろう。
何者かが壺に細工をしたのだ。
「この壺はやれない。そして殺されてもやれない」
五巳の声は掠れていたが、その声には力がこもっていた。
「はァ!?何を偉そォなこと言ってんだよォ!どっちにしろそォの壺はァ貰っていくし、アンタも殺してやるっつーのォ!」
「は?中々どうして偉そうですね。まぁ、どちらにしろその壺は貰い受けますし、貴方も殺しますけどね」
響くステレオ。
二重音。
五巳はこの喋り方をする人物をふと今思い出した。
「お前等は……古葉川兄妹か。……なるほど。どうやら里も本気で私を殺そうとしているらしいな」
独り言が聞こえたのか追跡者は反応を示す。
「そうともォ!俺の名前は古葉川一馬(こばがわかずま)ァ!通称『自分殺し(セルフキラー)』の一馬だァッ!」
「そうです。私は古葉川一菜(こばがわかずな)と申します。通称『他人殺し(アザーキラー)』の一菜です」
「……そうかい。そりゃご丁寧にどうも」
殺されかけている。
古葉川兄妹といえば里の中でも優秀な追跡者。
冷酷な狩人。
斬首の執行者。
そして純粋な殺人狂だ。
五巳の背中を一筋の汗が伝う。
「……しかしやはり私の答えは変わらない。お前等に壺はやれないし、殺されてもやれない。お前等みたいな殺人狂に殺されてたまるか」
これは五巳の精一杯の虚勢だった。
心が砕けそうに落ちそうになっているのを必死で繋ぎ止めようとしているのだ。
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