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心さえ砕けなければ勝機はある。
五巳にとっては逃走こそが勝利。
単純な暴力でこそ古葉川兄妹に劣る五巳であったが、逃げに徹すればまだ希望はある。
可能性を捨ててはいけないのだ。
……それにただ単に諦められないこともある。
五巳は壺を抱く腕に力を込めた。
「壺は絶対に渡さない……っ!」
「おいおいィ!いい加減にしやがれェ!……もうめんどくせェからァアンタ殺すわァ!」
「もう。いい加減にしてくれませんか。……そろそろ面倒臭くなってきたので貴方を殺します」
古葉川兄妹はそう言うと、それぞれの獲物を構える。
一馬は大振りなナイフを逆手に。
一菜は長すぎる日本刀を順手に。
構えると同時に五巳に飛びかかる。
勝負は一瞬だった。
いや、これではもはや勝負とは呼べないだろう。
圧倒的な暴力だ。
理不尽な蹂躙だ。
有無を言わせぬ、破壊だ。
古葉川兄妹はコンマ五秒で五巳の元へとたどり着き、
一馬はナイフを五巳の貧相な胸板に突き立て、
一菜は日本刀で五巳の細い首を薙払った。
五巳に考える時間は無かった。
気付いたら、いや気付くまでもなくこの世から姿を消す。
逃走できるだなんて大した自惚れだった。
勝利だなんて儚い夢だった。
五巳は暴力によって蹂躙され破壊され尽くした。
五巳の身体は空気の入ったビニール袋のようにしばらくゆらゆらとしていたが、空気が抜けたか、べしゃりと地に倒れ伏す。
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