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瀬名五巳の物語はここで終了した。
完全に十全に完璧に一分の隙も無く終了した。
しかしそれでも五巳は自身の目的を完了したのである。
「あッ!」
「あっ」
古葉川兄妹は壺を奪還することを一番に考えるべきだった。
そうすれば五巳の目的は未完了で終わるはずだった。
今では首から下しかない五巳の身体はそれでも律儀に壺を胸に抱いていた。
先程五巳の身体は壺を押し潰すようにべしゃりと崩れ落ちた。
その結果。
壺は割れてしまった。
こうなれば後の祭りである。
五巳の目的は壺の中身を放出することだった。
もっとも自分が死ぬ気は無かったし、こんな山の中で壺を割る気は無かったという意味で言えば未完了だったのかも知れないが、それでも主目的は達成した。
「おいィッ、異魂(コトダマ)がッ!」
「ああっ、異魂が」
未だ五巳の胸に抱かれた割れた壺から鈍く橙色の光が溢れ出す。
それはゆらゆらと丸く不確定な形を作りながら宙に浮遊する。
光と呼ぶには生々しく、物と呼ぶには遥かに不完全だった。
光球はしばらくその場に留まっていたが、まるで爆発でもするかのように四散した。
これがほんのコンマ零五秒の出来事である。
つまり先程古葉川兄妹が発した言葉は光球が四散した後のことである。
超人的な反射速度・敏捷性を持つ古葉川兄妹であったが、流石にいきなりの出来事に口をあんぐりと開けている。
「……なァ一菜ァ。コレってもしかしてェやべェんじゃァねーのかァ!?」
「……ねえ一馬兄さん。これは不味くありませんか?」
顔を見つめ合った後、二人はぶるぶると震え出す。
「やべェッ、マジやべェッ!大失敗だよこりャァ!……俺達さァ、火鎚さんに殺されるんじゃねェ!?」
「不味い、本当に不味いですね。大失態ですねこれは。私達、火鎚さんに殺されるんではないでしょうか?」
五巳を殺すことに何の抵抗感も遠慮も無かった古葉川兄妹だったが、それが自分達の身に降りかかるのであれば話は別だ。
火鎚という人物に対して古葉川兄妹は恐怖を抱いているようだった。
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