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軽くて甘いその刺激に、思わず酔ってしまいそうになる。
ともすれば吸い込まれてしまいそうな深い漆黒の瞳。体は、毛糸を引いたように柔らかくたおやかな曲線を描き、僕の幼い自制心を揺さぶっていく。
その誘惑から逃れようと、瑞々しく膨らんだ唇にたどり着いた頃には、もうすっかり彼女に囚われていた。
「適当に合わせた?」
上目遣いで聞いてくる彼女に、違うと首を横に振る。もはや言葉を失った僕は、そのあとに自分もそう思ったことを伝えることが出来なかった。
彼女は、またもや「ふ~ん」と鼻を鳴らし、いつの間にか終えていた昼食の後片付けを始めた。
ビニールのフィルムと紙屑だけになった袋の口をきゅっと縛り、無造作に鞄に放り込むと、終了の合図だろうか、手を合わせて目を閉じた。
静かに、長く。
やがてゆっくりと、目を開けると、今度は大きく息を吐いた。
「お祈り?」
彼女の周りの時間が動き出すのを待って声をかけた。
「ん~、ちょっと違うかな。」
立ち上がってハンカチを拾い、パンパンっと二叩き。次いで、自分の砂を払いながら、
「私、どっちかって言うと仏教だから」
と、少しずれた説明をしてくれた。
そして、僕の方にまっすぐ向き直ると、
「ねえ」
今度は彼女の方から、
「飛びたい?」
と、そんなことを聞いてきたのだ。
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