東堂詩織という少女

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「お前、それはあれだな。」 何か食べながら話しているのか、くぐもった声が耳に障る。 「何だよ。」 「だから、あれだよあれ。」 こいつとの会話は、指示語が多くて困る。当の本人ですら、「え~っと、なんだったかな」と困惑中だ。 「だから何だよ。」 「お、今ので閃いた。」 閃くな。というか、探しものはどこへ行った。 「それは死神だな。」 「はぁ。」 それだけ返すのがやっとだった。 携帯の向こう、やたらと斜め下から回答をよこすクラスメイトの名は、海。 海のようにでかい男に、という両親の期待を一心に背負った16歳。かっこ只今漂流中。 そんな漂流者から、死神なんてワードを引き出したのは、何を隠そう屋上の彼女だ。 昼休みの出来事を、かい摘まんで、出来るだけわかりやすく説明したら、そんな答えが返ってきた。 こうなることは想定の範囲内だったが、数ある選択肢の中からコイツを選んだのには、ちゃんとした理由がある。 こんな馬鹿な話をまともに聞いてくれるのは、バカしかいないと思ったからだ。 「お前なぁ、俺は心配してやってんだぞ?」 親切な友人は、尚も間食を貪りながら言う。 「お前がその変な女にたぶらかされて、自殺でもするんじゃないかってさ。」
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