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「自殺なんてしないって。」
「そうか?」
でも、お前最近疲れてるみたいだしな、と海は言う。
余計なお世話だ。
「とにかく、そんな素性の知れない女の誘いには乗るなよ?」
名前も知らない女の子に声をかけるのが趣味の海が言っても、いまいち説得力に欠けるが、
「あぁ、わかった。」
と、とりあえずそう答えておいた。
「遅くに電話して悪かったね。」
「おう!いいってことよ!!」
と、ちゃきちゃきの返事で電話は切れた。
お前は江戸っ子か。
と、短い通話時間を表示する画面に向かってツッコミを入れた。
そして液晶には現在時刻が表示される。
―22:30
それを確認して、携帯を右ポケットにしまった。
さて、
「どうするかな。」
海にはああ言ったけど、
「もう来ちゃったしな。」
目の前には固く閉じられた鉄製の門。いつも開いているところしか見ていないせいか、その先に異世界が広がっているような異質感を覚えた。
そしてその奥には、月明かりに照らされてそびえる校舎。その頂に、彼女は本当にいるのだろうか。
不安だけがどんどん大きくなっていく。ただでさえ小さな自分の存在が、夜の闇に溶けてしまいそうで体が震えた。
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