飛べない少年

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どうせ自分には出来ないのだから、アンタがやってみせてくれ、と、恥も外聞もなく、ただ懇願するようにもう一度空を見た。 すると、まるでそれが合図だったかのように、その体が少し沈んだ。 ただでさえ熱気を含んで重苦しい空気が完全に止まる。周囲から息をのむ音が聞こえそうなくらい聴覚が鋭くなり、目の奥には熱くなるような痺れを覚えた。 まさか、嘘だろ? 体は暑さを忘れていたのに、汗だけが流れ落ちてくる。頭の熱に反比例するように、どんどん身体だけが冷えていくのがわかった。 なんだ?何をするつもりだ。 本当は、そんなこと考えるまでもなくわかりきっているはずなのに。 しかし、その場にいた誰もが思ったであろう問いに、思考は束縛された。 そして次の瞬間、周囲の悲鳴を切り裂くように、その体は宙へ飛び出した。 ふわりと優しく解き放たれて、切り取ったように静止した時間の中で、僕は確かに、そいつが飛んだことを実感した。 現実が身体をすり抜けていくような感覚だった。 その後に、抗いようのない重力が襲い掛かることも忘れて、力学的に自由なその一点に、目を、心を奪われた。 何もなくなった。全身に体温が戻り、周りの生徒が動揺のうちに登校する中、ただ僕だけが、その座標から動けないままでいた。
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