憧れと嫉妬の間

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めでたしめでたし。 と締めくくって、モノクロの一人語りは幕を閉じた。 僕が聞いているかどうかなど、どちらでも構わなかったのか、依然彼女は横顔を向けたまま、口を開こうとしない。 僕の方も、何か返せばいいのか、聞かなかったことにすればいいのか、即座に判断することもできず、寝たふりを続けている。 彼女は、どうしてこんな話をしたのだろう。 事情をよく知らない僕が聞いても、それが彼女の記憶に基づく話だというのは容易にわかった。 ただ、流暢な語りとは裏腹に、例えようのない違和感があるのも確かだった。 恐らく、何らかの脚色や捏造が記憶に織り込まれているせいなのだとは思ったが、歯車が噛み合わないような感覚は、もっと別のところにある気がしていた。 その時僕は、初めて誰かのことをもっと理解したいと強く思った。 その気持ちがどこから来るのかはわからないが、単なる好奇心から来たものではないことは確かだった。 やがて、規則的な振動に、体が休息へと向かいはじめた頃、絡まりはじめた脳に、ふと一つの考えがよぎった。 さっきの昔話。 あれではまるで、妹が主人公ではないか、と。 だが、その議論を深める体力的余裕はなく、滑り込むように僕は眠りに落ちていった。
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