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眠りから覚めて、たどり着いた駅の明かりは物悲しく、虫の声と時折通る車の音が、改札口まで聞こえてきていた。
「じゃあね。」
と、彼女は何事もなかったように帰路に着こうとする。
「ちょっと待って!」
背を向けようとする彼女を、恐らく今日一番になる大声で呼び止めた。
「なんで、僕にあんな話を?」
ゆっくりと振り返った彼女は、
「わかってないね、律は。」
何度目かになる台詞を添えて、
「聞いて欲しかったんだよ。
律に。」
と、端的に、柔らかな笑顔でそう答えた。
たったのそれだけで、僕にとっては十分過ぎる説明だったようで、バイバイと手を振って彼女を見送った後も、抜け切れていない心の熱が、ジンジンと全身に広がっていた。
翌朝、昨日の疲れもあってか、目覚めは最悪だった。
幸い、両親からのお咎めはなく、睡眠も十分に取れたはずなのに、なぜか足取りが重い。
僕は何かを忘れているのか?
それとも気にかかる何かがあるのか?
思い付かないくらいなのだから、どうせたいしたことはないだろう。
そう、たかをくくっていたのがいけなかった。
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