憧れと嫉妬の間

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つまり海は確認を取りたいだけなのだ。 お前は昨日、授業中に生徒会長に呼び出されたんだよな、と。 おそらく校内一の有名人である会長の声は、スピーカーを通したとしても判別可能なくらい知れ渡っていたのだろう。 それは、初めて出会った日の夜の、彼女の反応からも明らかだ。 そして、そんな有名人と何の縁もないはずの僕が、名指しで呼び出されたとあっては、それを問いただしたくなる気持ちもわからないではない。 「さあ律!答えろ!!」 キャラをすっかり元に戻して迫ってくる海。 何のことはない。ただありのままに、放送で彼女に呼び出され、一緒に昼飯を食べた、と答えればいいだけのことだ。 だが― ここで彼女の名前を出していいものか、その一点が決断を鈍らせていた。 海も言っていたように、皆の頭の中には、一人の人物がすでに浮かんでいるのだろう。 しかし、ここで僕がその名を口にすることは、それを確信に変えてしまうことだ。 そしてそれは、生徒会長が補習を受けていなかった、という事実を認めることにもなる。 僕と関わったことで、彼女の評価が下がるのは、どうしても納得がいかなかった。
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