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重い鉄製のドアが、年季の入った軋みを伴って開け放たれ、停滞していた空気が一瞬にして吸い込まれていった。
屋上の扉に鍵がかかっていないことは、生徒の間では暗黙の了解で通っていた。なんでも古い扉のために、鍵が合わなくなってしまったのだそうだが、それを長く放置しておくとは、まったく危機管理のかけらも感じられない。
そのうえ、あんなことがあったばかりだというのに、立入禁止を誇張するような障害はなく、案外簡単に辿り着けたことに、正直拍子抜けしていた。
閑散とした空間に、昼休み特有の少し賑やかな雰囲気が、一層違和感を際立たせた。容赦なく降り注ぐ午後の太陽だけが、その存在を主張し、そのほかには何も、息を潜めている風もなく、何もなかった。
ゆっくりと、校庭側のフェンスに近づく。格子で区切られた向こう側を、朝とは逆の位置から眺めた。
そこには、もう朝の残滓は残っていなかったが、焼けたコンクリートとの温度差のせいなのか、通り抜ける風には、どこか冷たさがあったように思えた。
この境界の向こう、そこから見た景色を想像するだけで、体の底から震えてしまう。恐る恐る下に目を向けてみた。やはり予想通り、痕跡は跡形もなく消えていた。
だが、予想以上に何もなさ過ぎる気もした。この短時間に、そんなにキレイに処理できるものだろうか。それに、警察や救急が来たような形跡もない。
冷静になって考えてみれば、不自然なことだらけだ。
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