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「なに?」
ずっと見ていたのがまずかったのか、取り出したサンドイッチを自分の体で隠しながら、女生徒が声をかけてきた。
「それ、食べんの?」
この異質な空間のせいだろうか、思っていたことがそのまま口に出た。
僕の意図を計りかねているのか、女生徒は怪訝そうな表情を浮かべた。
だが、やがて何かに気が付いたようで、ハッと眉を上げると、
「欲しいの?」
と、一言。
まったく、的外れもいいとこだった。
「いや、いらないけど。」
「あ、そ。あげないけど。」
意味があるのかないのかわからないやり取りの後で、彼女は何事もなかったかのように昼食を再開する。
金網に体重を預け、均整の取れた長い足を惜し気もなく投げ出し、黙々と食を進める。
炎天下の屋上の、しかもまさにこの場所で。
'おかしい'という表現は、こういうときのためにあるのだろう。
異空間に違和感なく存在するこの人物は、間違いなく変人奇人の類だと思われた。
「朝のあれ、見てなかったのかよ。」
まともな返答は期待せずに、思ったことを口にした。
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