序章

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「寒っ」 漏らした独り言も虚しく、一冊のノートを繰る音に消える。 深夜11時、今俺がいる自宅の部屋の電気は消えているが、手元は学習机に備わるライトに照らされて明るい。 テレビも何もつけていないので、部屋はかなり静かだ。 「えーっと……」 2月の肌寒さのおかげで冷えた金属製のシャープペンシルが、ノートの上をさらさらと駆ける。 一番上の行に、 『2月21日』 と、今日の日付を書き記した刹那だった。 がちゃ、と軋んだ音を立てながら、部屋のドアが開いた。 「秋斗、起きてる?うわ寒っ」 声の主は夏海だ。 俺の妹の、斉藤 夏海(サイトウ ナツミ)。 15歳、中学3年……腰下まで伸びた長い真っ直ぐな髪を踊らせている。 「見ての通り、起きてる」 秋斗と呼ばれたのはもちろん俺で、夏海の兄である、斉藤 秋斗(サイトウ アキト)。 夏海の1つ上で、高校1年だ。 少し長めの真っ直ぐな髪は静かに佇んでいる。 俺が斉藤家の長男で、夏海が長女。 そして父母の、四人家族だ。 ドアに背を向けている俺の方に、夏海が近寄ってきた。 「暗い部屋でライトだけつけてたら死んでるように見えるわよ」 夏海は俺の横で立ち止まり、俺が今書いているノートに目をやった。 「あんたまだ日記なんてつけてたんだ!!さすがにもう辞めてると思ってた」 「悪いかよ。小学生の頃からとはいえ、日課なんだ」 俺は表情ひとつ変えない。
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