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簡単に涙を流す様な、敵を前で足を震わせる様な、まるで女の子みたいな自分に腹が立つ。
震える足に鞭打って駆けだす。
公園が目に入った。
慌てて駆け込む。
携帯。
ポケットを探る。
……今日に限って家に置きっ放し。
ここの公園を抜ければ直ぐに駅がある。いや、その前にコンビニが合った筈だ。
走って、走って、足がもつれた。
普段は履かない少しだけヒールの高い靴があだになった。
「そろそろ観念してくださいよ」
首だけ回して後ろを確認すると、息切れすらしていない三人の男がこちらを見ていた。
いや、長髪カエル男こと木田は息切れしてる。
たぶん直ぐにでも捕まえられるのに、敢えて走らせたんだろう。周囲に人の気配が無い。馬鹿だ。人の多い所に走るでしょ普通。
悔やんでも仕方ない。もうちょっとなのに、と思いつつも諦める。体を完全に男たちの方に向ける。少しでも足掻いてやる。
――後ろの茂みに影が出てスッと消えた。
男が息を潜めてこちらを見ている。木田たちに悟られないように目線を逸らす。彼が木田たちに気付かれるのは不味い。
都合よく魔力持ちの人が助けに来てくれたとは思はない。夢見がちな少女じゃあるまいし。
何より見慣れない顔だ。彼はきっと一般人。
何がどうあっても巻きこむ訳にはいかない。
とはいえ、一般的な感覚で見てもスキンヘッドは喧嘩の強そうな印象を受ける。茂みに潜む男が、三人相手に無謀にも突っ込んでくるとは思えない。
きっと、そのまま引き返して、警察を呼んでくれる。
そうなると、『九条の娘』である私の今の状況。この辺でも名うての魔力持ちが駆り出されているのは必至。数分で状況は一変するだろう。
活路は幾らでも見出せる。彼が警察に電話するまで、数分間粘るだけだ。やってやれ、私。それくらいなら魔力が空でも何とか出来るだろ!
そういう風に、思っていた。
――彼が完全に気配を殺し、体を動かすまでは。
勇敢にも飛び出して来そうな雰囲気だ。
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