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「さっさと仕留めろ。これ以上時間をかけるなら俺が二人纏めて殺す」
岩崎の怒りに震える声は人を脅すに足る迫力を伴っている。
もしも、俺が何も知らない一般人だったなら。
足が竦んで、呂律も回らぬまま殺されているかも知れない。さすがにヒトの放つ迫力に気圧されて動けなくなる事態に陥らない程度のキャリアは持ち合わせている。その辺の心配は必要ない。
「分かってるよ、岩崎。こいつを仕留めれば良いんだろ?」
木田が、汚らしく伸びた長い髪を纏める。
「早くしろ」
吐き捨てるように岩崎が言う。
事態を軽く受け止めているのか木田は相変わらず。
むしろ岩崎の焦りが空回りしているような印象も受ける。
なんならここで岩崎も仕留められないだろうか?
あの女、どうも、一般人ではないようだし、何とかなるかもしれない。
そしてあわよくばそのまま、あの女とこの不愉快な事件を忘れる為に近くのホテルにでも行って熱い夜を迎える、と。
……悪くは無い。
いや、むしろ理想的だ。
今日何度目かの笑みが零れた。
今日の俺はもしかしたら何でもできるかも。
ふとそう言った、らしくない考えが頭に浮かび、今度は苦笑する。
論理的でない思考はミスを誘発する。
女とホテルに行くと、それは良い。
過程が問題だ。
全員蹴散らす何て発想は少々甘い。
木田を止めて、後は専門家に任せる。
電話さえできれば、一瞬で方は付くんだが。
「えらく余裕だな色男」
電話をするのは流石に無茶。そんな時間は幾らなんでも与えてくれるはずが無い。
木田が未だに先ほどの話の続きを気にしている以上、時間の猶予は無くも無い。
ここは一つ、落ち着いて行動するべき。
煙草を取り出し、ジッポライターで火を付ける。
「中々絵になってるぜ」
ジッポライターは手に持ったまま、煙草の箱だけ無造作にポケットに突っ込んだ。
思考が散らばり始めてる。
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