ハッタリ

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 戦闘を回避できる流れでも無い。かといって一か八かの賭けに出るのはまだ早い。とりあえずは失敗しても取り返しの付くものからだ。  とはいえ、今からやろうとしてるのは策、というより悪戯に近い。簡単に切り抜けられてしまうはずだ。時間稼ぎという点では悪くないが。  ただまあ、問題は無い。結論も結果も変わらない。  ――必ず成功させる。  改めて、意識しなおせ。  三人とも、人の身に余るチカラを持って生まれた存在、魔力持ち。  木田の溢れる自信。肌で感じる魔力量。普通に戦えば、俺が数人がかりでも及ばないだろう。  その木田が素直に従う以上、岩崎は木田以上の実力者に違いない。  唯一、女を抑える男は実力の片鱗すら確認できない。  もしかすると、魔力持ちではないのかもしれない。とはいえ、そんな想像で動く訳にもいかない。  魔力持ちであっても無くても、”魔力持ちであると仮定して戦う”。  三人に向けて話しかける。なるべく上から目線を意識する。 「お前らに三分間だけ逃げるチャンスをやる」  本気だ。これが上手くいけば三人の内、最低一人は大怪我を負う。絶対的強者の余裕なんて洒落たもんじゃないが、この三分で逃げてくれたらお互い助かるはずだ。  女を抑えている男と岩崎がアイコンタクトを取っている。  どの様な意図なのかは分からなかったが、頭の片隅に置いておくだけでいい。  状況に変化は感じられない。目先の問題が優先だ。  魔術を作るには、”準備”が必要になる。そして俺の準備は事の他時間を要する。  それが三分。戦場に立てば軽く百回は死ねる。余りに長い時間。  岩崎と木田は何とかなる。岩崎が切れない程度に木田と喋ってれば百八十秒はやりすごせる。  問題なのは最後の一人。ここから感じる魔力は希薄だが、異能持ちなり契約者だった場合非常に厄介だ。  あの男次第では女の奪還の難易度が大きく変わる。 「武藤が確認した。その男、本気で言ってるぞ。魔力を開放して良い。気を抜くな、無駄なく殺せ」  成程魔力は意図的に使用してこなかった訳ね。魔力は指紋と同じ。優秀な魔力持ちが調べればそこから得られる情報量は計りしれない。  魔力の使用に気を使うのは当然か。  むしろそこに気付かなかったのは俺の失敗だな。  ただ、それはたいした問題じゃない。今となっては使う気なわけだし。  
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