ハッタリ

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 コンビニ袋に入ったアルコール度数の高い、水割り用の酒。  そこそこ高かったんだが……。まあ、命と天秤にかける値段では無かったか。 「結果は見えてる? 俺がお前より弱いってことか?」  ……。  何言ってやがんだこいつは。死を実感するまで高められた魔力密度のそいつをぶっ放されたら俺が死ぬって意味だろ、どう考えてもよ。  ”今”来られると、俺の勝率が急激に下落する。  残り一分、何とかしろ。 「落ち着け。これでも飲みながら話し合おう。知ってるだろ椎名管理区だぜ、ここ」  袋を地面に置き、酒を取り出す。つまみも、煙草も無駄にする訳にはいかない。 「ここで事を起こすのはお前らも本意じゃないだろ」  チカラの無い俺が幼少期から徹底的に練習したのがルーティーンの削除。  無駄故の恩恵も俺には大した意味が無いので相手に行使のタイミングが悟られない分、省いた方が良い。 「俺に戦意は無い。万が一、魔力を使えば、俺もこの管理区域から睨まれる事になる」  俺の魔術の特徴は二つ。ルーティーンの省力と、行使する瞬間まで魔力を僅かにも体外に放出しない点だ。  木田の様に魔力密度を高めていき、完成したら行使するのが基本だが、俺は"構築"に時間を要するため、密度からスペルまで読み取られる可能性もある。  ――徹底的な秘密主義。  戦闘において嘘なんて日常茶飯事。騙し合いに近い。  生き抜くために必要なのは情報の漏えいを防ぐ事だ。 「椎名管理区で事を起こすつもりは無かった。だけどまあ仕方ない、どうせ俺たちはお尋ねものだ」  残り四十秒。  岩崎が俺の質問に律儀に応えた。木田の魔術だけが完成している安心感からか。  俺が魔術を構築する気配が無い事も影響しているかもしれない。ホントは絶賛構築中だけども。 「そうかい。ならまあいい。木田君の魔術が完成してるのは感じてる。俺じゃ太刀打ち出来ないだろう」 「負け惜しみを言う余裕すら無くなったみたいだな!」  木田が嬉しそうに笑う。ああ、と適当な相槌を打ち、言葉を続ける。 「俺だってこの世界で生きてもう二十年近い。死に際は弁えてる。少しだけ時間をくれ、一口、酒を飲みたい」  瓶の蓋を開けながら問いかける。岩崎が否定しかけたが木田がそれを無視して俺の行動を肯定した。 「好きなだけ飲んどけ、何と言ってももう一生酒が飲めなくなるんだからな」  ――残り、三十秒  
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