ハッタリ

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 口元に酒を運び、唇か零す様に酒を傾ける。少しだけ口に入ったのを飲みこむ。キツい。 「木田君、あんた思いの外話が分かるな。残りはあんたらが飲んでくれ。俺を殺すご褒美だ」  フッ、と。  音が聞こえたのかと錯覚するくらい分かりやすく木田の緊張が緩んだ。 「お、ありがたい。仕事が終わったら酒を飲むのが俺の日課でな」  まさか、信じた? 「受け取れ」  酒瓶は中身を吐き出しながら中空に放物線を描く。  一歩下がった木田の足元で鈍い音と共に地面に着いた。  音がして、ひびが入り、酒が零れ出す。  ――残り二十秒。 「どうした? しっかりキャッチしろよ。酒はそれしか無いんだぜ?」  なんて、わざとらしく言ってみる。 「酒が貰えるのは有り難いんだよ。俺だってホントは受け取りたかった!」  芝居がかった口調で木田が言う。  頭の悪い木田君も流石に信じては無かったみたいだな。  強く逞しい的な意味で無く、読んで字の如くの醜男は勝ち誇るような顔で、たがな、と言葉を繋いだ。 「魔力持ちが触れた物に平気な顔して触るのは三流のやる事なんだ、覚えとけ」  おい。おいおいおい。この野郎まさか、市原と会った事が有る?  今まさに俺が連絡を入れようとしている男のよく使う台詞を何でこの馬鹿が。 「ホント、最近は素人が増えて来てこれじゃ手が足らなくなるよ」  確信。  芝居がかった口調に大げさな動作。市原と出会い、同じセリフを吐かれたに違いない。  実際、異能持ちなんかは道具に影響を与えるタイプも数多い。触れた物に触れないのは基本中の基本だ。  だが、お生憎様。俺にそんな力は無い。  むしろ木田の足元で酒が水溜りを作っているのは嬉しい誤算。理想的展開。 「つれないなあ」  軽口を叩きながらも、口角は勝手に持ちあがる。  ――残り十秒。  確実に弛緩していたこの場に、ゆっくりと張りつめた空気が戻って来る。  ――緊張と弛緩。  これを自在に操る奴が勝負を優位に進める事が出来るのは火を見るより明らか。  煙草を取り出し火を付ける。吐き出した煙はすぐに風に流された。  俺の一挙手一投足を三人の男が注視する。  イニシアチブは俺が握った。  そしてこれこそが。  俺の作り上げた、状況。    ――残り、零秒。  
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