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side change 九条
最強の魔法使い、との言葉が青年から口にされるのはこの僅かの間に既に二回目だ。
木田は素直に距離を取った。
本来、私を盾に話を進めるか、とりあえず魔術の構築をさせないために攻撃に転じる場面だけど、私には木田の判断を責める事は出来そうになかった。
逆鱗に触れよう物なら何をされるか分からない。そんな類の恐怖を私は、あるいは私たちは感じていた。
飲まれそうになっている雰囲気からいち早く抜け出したのはやはり、というべきか岩崎だった。
「殺せ、油断するな」
冷めきった台詞に岩崎一派三人の空気が引き締まる。
「ああ、ちょっと待っててくれ。直ぐ終わらせる」
ただ、岩崎のプラン通り、素直に振り回される気は毛頭無いとばかりに、青年は脱力したまま、木田に話しかける。
意図的な挑発、というよりも淡々と自分の感想を告げようとして木田に遮られる。
恫喝する様な木田の迫力に飲まれる気配もなく、今度はしっかり意見を伝える。
「魔力量の多さが自慢らしいが、今後は控えた方が良い」
「何が言いたい?」
木田の発言は最もだった。彼から感じられる魔力は木田の十分の一以下。木田の魔力は一般的に見ても多いし、彼の魔力量は平均以下だ。
「続きはお前の名前を聞いてからだ」
なるほど、納得。名前は情報収集の基礎だ。
「俺の名前は山田平次」
彼が、山田さんが朗々と自己紹介をする。さっきまで目線だけで人を殺しそうだった男とは思えない。
修羅を彷彿させた男はなりを潜めてる。まるで普通の人間が喋ってるみたいだ。
意図して木田を操作して名前を聞きだす事に成功している。
岩崎が苦虫をつぶしたような顔で額に手を当てているのが痛快だった。白馬の王子様なめんなハゲ。
「さっさと仕留めろ。これ以上時間をかけるなら俺が二人まとめて殺す」
爆発的に岩崎の圧迫感が強まる。内心の悪口が届いたのかと一瞬怯えた自分が情けない。
魔力が空だから一般人以上に無防備なんだ仕方ない。必死に自分に言い聞かせる。
実際に圧迫感に、あるいは殺気に晒されている山田さんはケロッとした顔で岩崎と木田のやり取りを聞き流している。
……私とは大違いだ。
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