ハッタリ

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 山田さんが煙草を吸い始める。戦闘中とは思えない気軽さだ。  右手にジッポ、ときおり煙草を手に取り煙を吐き出し口元に運ぶ。左手にはコンビニ袋。両手が塞がってる。これじゃ、ルーティーンさえ組めそうにない。  余裕の表情で木田と中身の無い会話を続けてる。  一瞬。ほんの一瞬コンビニ袋に目を落とした後、山田さんは晴れやかな声で木田に話しかける。  木田が魔力量を自慢するのを窘めた理由について教えてくれるらしい。 「そこの女にも劣るお前の魔力量なんてのは、中途半端すぎて自慢するには余りに情けないって言いたかったんだよ」  この言葉を皮切りに木田は堪忍袋の緒が切れたのか怒り始める。  そんなことはどうでも良かった。  私の魔力量を上回る人間は、この世界でも五十人を切る。  三十代後半まで魔力の量は増え続けるが、私より魔力の多い四十歳以下の人間は居ない。  山田さんは見るからにまだ三十歳にもなっていなさそう。木田を乗せる為の挑発とも考えられるとは言え、彼が言い出すとあながち嘘にも聞こえない。  まさか本当に私より魔力量が多い?いや、でも協会の名簿ではその可能性が有る人なんて見当たらなかった。  量だけしか取り柄の無いお荷物なんて市原さんや内海さんには馬鹿にされるけど、それでも魔力の過多で勝敗が決まる事も少なくない。  それだけで十分立派な武器になる。  そこまで考えて身動きが取れないながらも小さく首を振る。  体に感じる山田さんの魔力量はごくごく微笑。たとえセーブしてるとしてもマックスではせいぜい中堅クラス。木田を馬鹿に出来る程では無い。 「ふざけるのはここまでだ!!」  木田の叫び声と共に爆発的に跳ね上がる周囲の魔力密度。魔力が空になってる私の全身に悪寒が走る。  だけど、岩崎の張り裂けんばかりの叫び声と共に木田がシュンとなる。呼応するように魔力も萎えた。  僅かな解放感と脳裏に浮かんだリアルな死のビジョンに冷や汗をかきながら山田さんを見る。  少し前までは山田さんに勝機が有る様にも見えた。ただ、さっきの木田の魔術構築の密度と速度で急速に頭が冷えた。  ――そこらの魔術師じゃ手も足も出ない。  木田は確かに頭は悪そう。あと、なんか汚い。対して山田さんは木田を上手く翻弄して意図したとおりに操っている。しかも、怖すぎる目つきを除けば随分かっこいい。  
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