ハッタリ

13/13
前へ
/66ページ
次へ
 恐らく木田の魔力は二等魔術師の最上位、あるいは一等魔術師にも相当する。勿論魔力の量なんかじゃなくて実力で全てが決まるけど、やっぱり魔力量と比例することが多い。  世界最小の魔力量で特等魔術師の地位にまで上り詰めた一之瀬さんは例外中の例外。半世紀前に活躍した、黄金世代の中でも彼は特に異質だ。  思考が斜めに大きくそれ出した。 「――三分だ」  山田さんの声だ。オーケストラが演奏する直前の静寂さを思わせる。山田さん以外の音が空間から排除されたかのような錯覚さえ覚えた。  木田が口を挟んだ時、思い出したかのように風や、遠くの雑踏、周囲の雑音を耳が拾い出した。 「お前らに三分間だけ逃げるチャンスをやる」  同じ地面に立っているのに遥か頭上から見降ろされている様な。経験した事は無いけども、玉座からの王の言葉の様な。  疑う事も逆らう事も許されない響きが確かにそこにはあった。  岩崎が、無礼にも私の腕を抑え続けている男に目線を向ける。後ろの男の動きは分からなかったけど、頷くか何かのレスポンスを示したらしい。 「武藤が確認した。その男、本気で言ってるぞ。魔力を開放して良い。無駄なく殺せ」  『人の嘘を見抜く』異能を持つ後ろの男。名前は武藤か。  その武藤が言うんだから間違いない。異能は簡単に言うと魔術の上位互換に当たる。精度は魔力より遥かに上だ。  器用貧乏の魔術師。馬鹿の一つ覚えの異能持ち。他力本願の契約者。  一長一短あるけども、異能は絶対的だ。能力に対して対応策が無い。  過去確認された異能が発現する事は有っても同時期に二つ以上同じ異能が発現した例は無い。  『人の嘘を見抜く』能力はどの時代にも確認されていて、レア度こそ低いものの欲しがる組織は数多い。  その能力の持ち主が嘘は言って無いと言う以上山田さんは本気らしい。  木田との幾つかのやり取りのあと、木田が合掌する。杖を振ったり、掌をかざしたり、忍者で言えば印を結んだり、色々ある中でも最も一般的なものだ。  私は対象物を指さす事が多い。木田と違う事に小さな安堵感を覚える。 「止めとけ、結果は見えてるだろ」  木田が魔術の構築を終える直前、呟くように山田さんが言う。  未来予知に等しい、強者の言葉。  魔術の行使を行った瞬間お前の首を跳ね飛ばすとでも言わんばかりの宣言。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

382人が本棚に入れています
本棚に追加