爆弾魔

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 もしもし、の様な前置きも一切無く、電話口からは一方的に声が聞こえ始めた。 「平次か? やけ酒なら山崎が付き合ってくれるだろ。俺は今忙しいんだ、切るぞ」  そして、一方的に終了した。  これは、無い。人として。 「待て待て、切るな。事件だよ事件。ちょっと魔術使っちゃったし、相手もそれっぽいし」  電話の向こうから溜息の様な音が聞きとれた。 「おい、市原。溜息吐きたいのはこっちの方だぞ、とりあえず――」 「――またバイトだな? それに、お前、アレは使うなと言っておいたはずだ……」  くどくどと電話口から説教が告げられる。  デスクワークのストレスを俺で発散されるのは溜まらない。  もういい。 「さっさと来いよ、俺がバイトしてたコンビニ横の公園だ。さっさと来ないと死体が 二つ増えるぞ」  何としても早急に駆けつけて貰わなければならない。  要件だけを簡潔に伝える。  あの手のタイプは身内を傷つけられると必要以上の制裁を加えようとするからな。  このままだと、俺と、名も知らぬ女、二つの死体は直ぐにでも作られる。  まったく。  我ながら馬鹿な事に足を突っ込んだものだと、溜息が洩れる。 「絶対殺すなよ!! 都合のいい事にもう公園の目の前だ」  電話はそこで一方的に切られた。  いまいち会話が噛み合っていないような気はしたが、気 にする余裕は無い。  問題は迎えに来てくれるまでの時間だったが、実に都合よく。  サイレンの音と、パトランプの赤い光が公園に差し込んだ。  車が公園の入口のあたりで停められ、運転席から背広姿の男がパトカーから降りてくる。  非情で冷徹で無愛想な男だ。  そして不本意ながら、それ だけの男でないのは俺自身しっかり理解している。  何より、魔力持ちにとって、大きな影響を及ぼす家系の面では日本でも有数。  俺だって家系の面では引けを取らないが、市原は家系に見合う実力を持っている。 「お前、こんなところで魔術なんか使うな、仕事増える」  氷というよりも蛇を思わせるような冷めた眼差しを向け、イラついたように俺に告げた。  ひとまず、この状況で火達磨の方に意識を傾けないこいつの神経を俺は有る意味尊敬している。  
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