爆弾魔

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 市原の表情があからさまに変わる事はそれほど多くないが、付き合いが長くなれば、こいつほど表情を読みやすい男も居ない。  今は、言葉とは裏腹に、安堵の表情を浮かべている。 「だいたいだ。俺は今仕事中だ。そしてこの仕事は俺の部下の死ぬほど身勝手な行動で起きた物であって、まだ解決もしていない」  市原は、その安堵の表情を一瞬でどこかに追いやり、矢継ぎ早に言葉を紡いだ。  そして、その言葉は終わりを見せる気配は無い。  折角助けだした女はいつの間にか背中を向けている。 「ここら一帯は覆面含め東京の警察が所有する車両の四割。その他の機関からも数えきれない程の関係者がうろうろしてるんだ。ほとんど俺の部下のせいでな」 「分かった、悪かったよ。とりあえず、あいつらをどうにかしてくれ」  今となってはあの三人に怖さは微塵も感じない。  覚えるのは同情の念ばかりだ。  怒り心頭の市原には生贄が必要で、彼らは正に打ってつけだ。  南無。 「明日俺はあらゆる部署の人間に睨まれる。椎名さんを筆頭に上司連中からも小言を貰う。何より極めつけは九条だ、よりにもよってそこの娘なんだよ事の元凶が」  そんな状態の俺をよくも平気で呼べたな、と無表情で俺に言う市原。  内容を聞く限り同情の余地は有るものの、途方も無く、傍若無人。  我が儘は魔力持ちの性、と古くから言うらしいがまったく持ってその通りだ。  市原は、煙草を取り出し、一本咥え、そして。  ――指から炎を出し、点火した。  ”異能持ち”の癖に魔術を使う。  羨まし過ぎる天才の見本。  異能持ちの例外。  紫煙を吐きだしようやく落ち着いたのか、市原はようやく木田たちの方に意識を向けた。 「市原。アレ全部犯罪者だから早くパクッてくれ」 「……いくらなんでも正当防衛では罷り通らんぞ、アレは」 「なら、正義の鉄槌って事にしといてくれ、親父の名前出して良いから」  こういうやり方は好きじゃないが、立っている者は親でも使え、先人が残した言葉には従うべきだと、俺は考える。  市原は、にやけ顔を必死に隠しながら、わざとらしい溜息を吐いた。  
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